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三谷てるみの「美肌学」
● 第5回 アトピーについて
 アトピー性皮膚炎について検証してみたいと存じます。 敏感肌用化粧品として開発された某化粧品の刺激試験の結果が『皮膚』という日本皮膚科学会大阪地方会機関紙のVol.40 No.4 AUG.1998に出ていました。その中で東北大学医学部皮膚科学教室の田上教授は『いわゆる敏感肌』として『接触皮膚炎、アトピー性皮膚炎や乾皮症などを持つ患者の皮膚』と定義し、刺激性を確認するために、接触皮膚炎の既往を持つ者、アトピー性皮膚炎、乾皮症、光線過敏症患者を対象にパッチテストを施行しています。『いわゆる敏感肌』と広義の定義ですが、狭義の定義では『敏感肌』とはアトピー性皮膚炎を指します。 そこでアトピー性皮膚炎について、学会の見解を中心にお話し致しましょう。

アトピー性皮膚炎の定義
 アトピー性皮膚炎は、よくなったり悪くなったりを繰り返す、カユミのある湿疹を主な病変とする 疾患。患者の多くはアトピー素因を持つ。

アトピー素因とは
 (1)家族歴・既往歴
   (気管支炎、アレルギー性鼻炎・結膜炎、アトピー性皮膚炎のいずれか、あるいは複数の疾患)
 (2)IgE抗体をつくりやすい素因
以上が日本皮膚科学会で決められた定義です。

「アトピー体質」とも呼ばれるアトピー素因には大きく分けて二つの要素が有ると考えられます。
一つはドライスキン
 鳥肌のようなブツブツした、しかし炎症所見の無い肌質(アトピー肌)、これは皮膚の一番の仕事である外からの攻撃を撥ね返すバリア機能が損なわれ、普通の人では何とも無い非特異的な刺激に過敏反応を起こします。そればかりかダニやホコリのような環境抗原を簡単に進入させてしまいます。皮膚科学で言う『敏感肌』はこれにあたります。一般の人は敏感肌を間違って捕らえていると言えます。

もう一つはアレルギー素因
 いくつかの化学伝達物質や免疫細胞が関与して最終的に「アレルギー炎症」が起こり、難治化します。皮膚炎・喘息・アレルギー性結膜炎・アレルギー性鼻炎など、次々に起こり「アレルギーマーチ」といわれる状態になります。

アトピー素因を持つ方に特徴的に現れるのがスティンギング(stinging)と呼ばれる現象です。
 これは化粧品などを塗布した直後に、ピリピリ・チカチカ・カッカなど違和感や痛みを感じ、強い時には赤くなったり、蕁麻疹が出来たりします。顔面では鼻唇溝(小鼻の周り)が好発部位です。
これは化粧品の成分が経皮吸収され、皮膚の細胞が間違って化学伝達物質を出してしまうことにより起きます。一過性のもので、接触皮膚炎とは別けて考えられます。
この現象はアトピー素因を持つ人に起き易く、言い換えるとスティンギングが起き易い肌の方が皮膚科で言う「敏感肌」と言えます。

この現象については私が最初に論文にしたのですが、皮膚科の先生方にはよく理解されたスティンギングも、まだ化粧品研究者の中でも理解していない方がいるようです。
スティンギングが起きたから即、肌に悪い影響があるとは言えませんが、痛みを感じる化粧品を我慢して使うこともないと私は考えております。

症状の軽減と外用剤
 アトピーの方は、正しいスキンケアをし、皮膚の乾燥を避けるようにすると、症状もよくなります。 皮膚がしっとりすると、かゆみも軽減し、掻かなくなります。そうすると皮疹も快方に向かいます。 又ストレスが悪化の原因にもなるので、ストレスを解消する事や、紫外線、気密性の高い住環境からくるダニやカビの環境抗原を除去する努力も必要です。 いま色々な民間療法が流行っていますが、本当に有効と認められる物は少ないようです。 ステロイド軟膏は皮膚科専門医の指導の下に使用する分には副作用は心配しなくてもよいと思います。最近はプロトピック軟膏が使われるようになり、顔面の皮疹には効果を発揮しているようです。プロトピック軟膏はステロイド軟膏の欠点であった顔面紅皮症を起こさず、また赤味を消す働きもあり、16歳以上の患者に処方されています。ただ、人によっては、塗布時の激しいスティンギングを2〜3日我慢しなければなりません。また顔面以外には効果が低いと報告されています。顔面は無意識で掻いてしまいますし、特に眼の周囲の強度な炎症は白内障になり易いので要注意です。

アトピー性皮膚炎に関する書物や雑誌がたくさん出版されておりますが、まずは皮膚科専門医で、特にアレルギー性の疾患を専門に取り組んでおられる先生方の著書を参考にされることをお勧め致します。
  須貝 哲郎 ・ 西岡 清 ・ 吉田 彦太郎 ・ 戸田 淨 ・ 竹原 和彦
  宮地 良樹 ・ 早川 律子 ・ 田上 八郎 ・ 川島 眞(順不同 敬称略)
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●開発者紹介> 三谷てるみ | 美肌学