Developer

三谷てるみの「美肌学」
● 第1回 ドライスキンとは
 今回はドライスキン(乾燥肌)についてお話し致します。
「乾燥肌」とは皮膚の最外層の角層と呼ばれる細胞層のしかも表面に近いところの水分の欠乏した肌です。 「そんなこと知っている」と思われるでしょうが、このメカニズムが明らかになったのは最近の研究の結果ですし、まだまだ研究の途中でもあります。ですから、色々な段階での断片的な知識しかお持ちでない方もかなり多いのです。 以前は、角層は"表皮細胞の死んだ細胞の層だから垢になって剥がれていくだけのもの"とされていました。実は角層は皮膚を守ると言う大切な機能を持っており、角層になるための準備を表皮細胞が早くからしていることがわかりました。 そして角層の大きな機能の一つが『外のものを中に入れない・中のものを外に出さない』です。すなわち外界の諸々の有害物質が体内に侵入するのを防ぎ、体内の水分や有用物質が失われるのを防いでいます。 太古の昔、水生生物として生まれた原始生命が多種多様に進化した過程で地上に生活の場を得られるようになったのは、乾燥と紫外線と重力に適応できたからです。 その意味でも肌の乾燥を防ぐと言うのは、私たちにとって長い長い歴史を持つ命題と言えます。


 
話を元に戻して、『肌が乾燥する』とは……。 それは角層中の水分蒸散を防ぐ物質が欠乏するからです。角層を構成する細胞はケラチンという硬い蛋白質の層で出来ていて、その層の間に水分を結合させるNMF(天然保湿因子)と呼ばれる主にアミノ酸やその分解物で出来た保湿剤が水の分子と結合しており、それらの角層細胞をちょうどレンガを留めるセメントのように細胞間脂質が存在します。これがウォーターバリアと呼ばれる機能で、水分の蒸散を押さえ、外界からの物質の侵入を防ぐ役目をしています。 この部分でのNMFや細胞間脂質は表皮細胞が生きている時に作った大切な物質です。 これらの物質をうまく作る事ができない皮膚がすなわち「アトピースキン」であり「ドライスキン」なのです。この角層細胞は核が無いため死んだ細胞と思われてほとんど省みられない存在でした。それどころか剥いだ方がきれいになるとされていました。しかし核が無くても大切な役目をしている細胞は赤血球のように他にも有ります。電子顕微鏡と電子機器の発達のお蔭で今では角層が活き活きと活躍していることが証明されました。

 
ところで私のした仕事に「肌質の検討」と言うのが有ります。開発されたばかりの電子機器を使って肌の水分量・皮脂量・経皮水分喪失量・皮膚中和能等を測定し、ニキビ・アトピー・小児・高齢者の肌質を検討しました。 その結果、皮膚の表面を覆っている皮脂膜は、保護作用はあるが水分の蒸散を防ぐ作用はあまり無く、脂性肌なのに水分保持能の低い乾燥肌の人が存在することがわかりました。 それまでは肌質とはオイリー・ノーマル・ドライの3種類に分けられ、スキンケアのクリームも油性成分の配合量で選ぶようなメニューでしたので、化粧品店で、"皮脂の分泌が多いのにかさつく"と言って買ったクリームでかえってニキビが増えたと言う症例がよくありました。 最近、皮脂中の遊離脂肪酸が細胞間脂質を壊していることがわかり、皮脂の分泌のよいオイリースキンなのにかさかさしたドライスキンの人、いわゆるオイリードライという肌質のメカニズムが明らかになりました。

 美容上のためだけではなく正しいスキンケアをして頂きたいのは、このように皮膚が重要な役目を持ち、しかも角層表層が大切な働きをしているからです。身体の栄養や必要物質は食事を中心に摂取することが一番です。もちろん皮膚の栄養も他の臓器器官と同じく血液やリンパ液からもらっていますが、肌の表面のメンテナンスに関しては、外から塗布することが一番です。即ち紫外線を防ぎ、乾燥を防ぐことです。これは先にも述べましたように「毛の無いサル」としてのヒトの宿命です。 老若男女を問わず必要なケアです。

 そして乾燥肌の方の中には、細胞間脂質がうまく作ることが出来ない肌の他に、間違ったケアで細胞間脂質を壊したり取り去ったりしてしまった肌の方がおられます。 洗顔のし過ぎ、石鹸・シャンプーの使い過ぎ・擦り過ぎ、最近多く見られるOvertreatment dermatitis(過剰手入れ皮膚炎)と言われる症状です。 細胞間脂質が減少し"保湿能"が低下、その結果水分がどんどん出て行く状態になり、かさかさしたドライスキンになってしまいます。バリアー機能が低下し、外界の物質が入りやすくなり、刺激反応やアレルギー反応を起こしやすくなり、いわゆる敏感肌になってしまう悪循環です。

 そうならないために保湿をしっかりして頂きたいのですが、直接水を塗布しただけでは解決しません。水にふやけた状態の皮膚はバリアー機能が働かなくなり、かえって物質の侵入を促します。また過剰の水分子は角層ケラチン蛋白の結合水を全部自由水にしてしまい、蒸発を促します。水に濡れた皮製品が乾くと硬くなるのに似ています。 ケラチン蛋白に水分子をしっかり結合させた状態を保つのが保湿剤です。そしてその水分を逃がさない細胞間脂質を補う物質をたっぷり塗布することが理に適っていると言えます。

 私は「トレジャー」の処方に際して、保湿剤にヒアルロン酸を、そして細胞間脂質はスフィンゴミエリン(セラミド)ですが、市販されている原料は純度の低い割には価格の高いものですので、細胞膜脂質であるフォスファチジルコリン(リン脂質、レシチン)を選びました。この方が純度の高いものが手に入るからです。そして乳化力もあり一石二鳥だからです。  新しい発見が次々に有り、それによって皮膚の機能も詳しく解明されてきました。まだまだ化粧品も進化すると存じます。

前へ戻る
次へ進む




●開発者紹介> 三谷てるみ | 美肌学